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インタビュー大垣眞一郎
2012.08.05 | Category 独創人インタビュー

独創人インタビュー

 

第4回  大垣 眞一郎 先生大垣先生 105x140.jpg

 

Japan Treasure Summit(JTS)は、
学術芸術が果たす役割を世に問い、学術芸術のすばらしさを発信するとともに
日本社会に合った寄付文化・社会的投資文化の形を提案することで
学術芸術活動を社会全体が支える風土を醸成していきたいと考えています。

JTSでは、学術芸術界のトップリーダーである独創人のご経験を伺いながら
日本社会に合った寄付文化・社会的投資文化の形を模索していきます。

 

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JTS事務局(JTS)>

寄付により実現・加速した研究成果、活動等の事例を教えてください。

 

<大垣眞一郎先生(大垣)>    

大学には、個別の奨学寄付金という制度があり、その寄付のおかげで研究成果を出すこと
ができたという経験がありますが、個人としてではなく、大規模な例をお話させていただ
きます。

 

私が東京大学・工学研究科長を務めていた頃、「武田先端知ビル」という建物を学内に建
てることができました。これは株式会社アドバンテストの創業者でおられる武田郁夫様か
ら、工学部へ40億円の寄付を頂戴したおかげでした。もちろん工学部の研究資金にも活
用させていただきました。東京大学としては、恐らく、個人名を冠につけた最初の建物だ
と思います。約7,000m2の建物の中に、半導体のためのクリーンルームや350名ほど収容で
きる中規模ホールを作らせていただき、工学部のみならず、大学全体としても大変な恩恵
にあずかりました。
これだけの規模の予算をとり、建物を建てるということは、大学ではなかなか困難で、
そう簡単なことではありませんので、大変有難かったです。
これにより、建物のスクラップアンドビルドができ、敷地の有効活用ができました。
半導体関連の研究に大変役立ったのはもちろんのこと、研究室スペースができましたので、
工学部内での分野の連携や融合のテーマを募り、場所を確保して、研究推進を行うことが
でき、現在もその活動は続いています。寄付を頂戴いたしました武田様によると、創業初
期に、東京大学の工学部の教授に色々と教えていただいたことに対する感謝と、会社の担
う分野の発展への期待から寄付をいただけたと聞いております。

 

また、異なる例として、私の研究分野である「水」に関連したお話をさせていただきます。 
栗田工業株式会社およびそのグループ会社が、平成9年より、社会貢献事業として「クリ
タ水・環境科学振興財団」に出捐をして、研究助成を行っておられます。主に若い研究者
を対象に、水や環境科学に関連した研究テーマにて応募を募り、毎年、約400件の応募の
なかから、約50件に、総額約2500万円の研究助成を行っています。 私はその審査委員長
を務めさせていただいているのですが、研究テーマに沿って、自由に使える助成金は若い
研究員にとっては、大変有難く、出張費に使用したり、備品や消耗品を購入したりと、
少額であっても大変助かるものなのです。また、助成を受けた若い研究者のうち、その5年
後に特に活躍している方には、表彰を行うといった活動も行われているので、若い研究者
にとっては励みにもなっています。

 

JTS事務局>

社会全体で支えるべき学術・芸術活動にとして、今後、更に発展が期待できる研究分野、
プロジェクトに関してお聞かせください。

 

<大垣>    

ひとつには、「災害環境研究」という分野があると思います。
環境というのは、普通の生活を取り巻く大気が健康に影響しないか、飲んでいる水は大丈夫
か、土壌は安全かなど、要するに定常状態、平常時の議論を行うのですね。だけど、災害が
起きると、津波だろうが、地震だろうが、竜巻だろうが、普通とは違う環境になり、私達、
人間はそこに置かれます。その時に、どういう現象が起き、環境はどうなるのか、そして、
対策アクションをどう取っていくかということが問われますが、異常時での体系だった研究
手法や研究体系が無いのではないかと考え、国立環境研究所では、「災害環境研究の俯瞰」
という文書を作成しました。3年程前に「不連続変化の時代」(著者:ジョシュア・クーパー・
ラモ 原題:The Age of the Unthinkable) という本が出版され注目されました。科学的
な発明も不連続におきますが、一方9.11のようなテロや、3.11のような災害も想定外のこと
です。非日常、非定常、想定外のことが起きる時の対処の為の科学技術について、環境分野
に関してその第一歩としてまとめたものがこの「災害環境研究の俯瞰」であり、今後、他の
大学、研究機関の協力も得て、災害環境研究を更に充実させたいと考えています。

 

リスクコミュニケーションとかいろいろな話がありますが、人間の心理とか、集団行動とか、
そういう社会科学分野も関係しますし、更には人文科学にも関係してくるし、当然、理学、
工学、医学など広い分野に関係してくると思います。社会的余裕がでてくると、医学を勉強
していた人が工学を学んだり、工学を学んでいた人が社会科学を学ぶなどといったケースも
あるでしょう。今の若い方達のなかには、自分の専門以外の分野に飛び込んで、更に勉強す
るという人がいないわけではないので、そういう人たちが新しい形をつくるきっかけになる
のではと期待しています。若い人たちが新しい分野を切り開くでしょうし、新しい分野を作
っていくためには、まず、若い人が元気になる必要があります。
次の世代を育てるためには、更なる寄付文化の醸成が必要なのではないかと思います。
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 20127月 - 国立環境研究所にて)

 

JTS事務局>

社会全体で支えるべき学術・芸術活動にとして、今後、衰退・消滅が危惧される研究分野、

プロジェクトに関してお聞かせください。

 

<大垣>    

科学技術の基盤となるようなデータを蓄積する仕事ですね。
非常に長期間にわたり、測定を行い、データを蓄積することは、とても大切です。何も起こ
らなければデータが蓄積されるだけですが、何か異常が発生した際に、平常時のデータがあ
るからこそ、異常時の議論ができるのです。地球大気の炭酸ガス濃度の長期増加傾向や、
オゾンホールの発見に関してもそうですが、長期間かけて蓄積されたデータがあるからこそ、
発見できたことです。ただ測定しているだけの期間は、誰にも注目されない、研究者として
は、いわばボランティアに近いような仕事ですが、そんな人たちの研究費と生活費を確保し、
身分・職場を保証するための解決策を見出さなければなりません。
現代のように、研究者間の競争が激しくなると、競争に勝ちやすい分野や、時代が求める分
野では、身分や職も保証され、寄付も集まりますが、こういった科学技術の基盤となるよう
なデータ蓄積の分野は、危機的な状況にあります。この国立環境研究所でも、藻類を集めて
系統保存するとか、北海道の果てや沖縄の果てで、炭酸ガスを測定し続け、日頃は機械が正
常に動いているかなどチェックを行うという地道な作業を、他の研究作業と同時に行ってい
る研究員がいます。現在の日本では、個々の研究機関や、個人の研究者の努力に頼っている
のが現状で、持続してゆくのが困難な状況にあります。
科学技術を支えるデータ蓄積を継続してゆくためには、この状況を改善する必要があるのです。

 

その他、私の水の分野では、過去の歴史的な研究成果の保存を行うことですね。
博物館に保存していただければ良いのですが、そうならない場合が多いのです。有名な芸術
品は保存する体制が整っていますが、科学技術に関連する歴史的なものの保存も行わなけれ
ば、いつかは無くなってしまいます。ある時代の映画フィルムが一斉に劣化してしまったと
いう話を聞いたことがありますが、科学技術においても同じようなことがあるのではないで
しょうか。

 

JTS事務局>

学術・芸術活動への寄付のあり方に関して、大垣先生のお考えをお聞かせください。

 

<大垣>    

若い方たちが自由・闊達に使える寄付というようなものは、魅力的だと思います。
現在の助成の多くは、評価を伴うもので、そのための業務が増えます。そのような業務を伴
わない寄付が少額でもあると良いのではないかと思うのです。
研究の世界では、近い将来の成功・成果のためではなく、また、研究範囲を狭めることなく、
自由に研究できる場が必要だと思います。例えば、自由に研究できる施設があって、若い学
生が、何年間か、そこにいられるとか。ものすごく費用がかかるので大変だとは思いますが。
大学には、寄付講座がありますが、そこで、テーマを絞らずに、若い研究者に、自由な発想
で研究発表を行えるようにするとか。研究テーマや期間を明確にしたものに対する寄付も必
要ですが、もっと自由に、次世代を担う若い研究者達への投資のための寄付が増えると嬉し
いです。

大学は、若い人を育てるために存在している場所なので、大学に寄付するということは、
次世代を担う研究者が育つことを期待してのことだと思います。豊かな未来のためにも、
若い研究者の育成が何よりも重要なのです。

 

 

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