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インタビュー山本邦山
2012.10.17 | Category 独創人インタビュー

独創人インタビュー

 

第5回  山本邦山先生山本先生 写真105x140.jpg

 

Japan Treasure Summit(JTS)は、
学術芸術が果たす役割を世に問い、学術芸術のすばらしさを発信するとともに
日本社会に合った寄付文化・社会的投資文化の形を提案することで
学術芸術活動を社会全体が支える風土を醸成していきたいと考えています。

JTSでは、学術芸術界のトップリーダーである独創人のご経験を伺いながら
日本社会に合った寄付文化・社会的投資文化の形を模索していきます。

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<JTS事務局(JTS)>
寄付により実現した芸術活動等の事例を教えてください。

<山本邦山先生(山本)>    
日本三曲協会や都山流尺八楽会など、邦楽文化への寄与を目的とした団体では、寄付を
行っています。会員の皆様より頂戴した会費から、年次計画を作成し、活動を行うわけ
ですから、皆様の会費が寄付に結びついているのです。
とりわけ、専務理事を務めております都山流尺八楽会では、自分の思う企画を進めるこ
とができたように思えます。演奏会によっては独立採算で行うとか、楽会からの寄付を
用いるなど、数十年にわたり、様々な試みを行い、邦楽の発展に努めております。

出身地である滋賀県の大津市民会館では、正派白菊会主催による演奏会を1998年から
毎年行っており、今年で14回目になります。
1部では琴コンサートを、幕間休憩後の2部では新しい企画を導入することで、邦楽
ファンを増やしてゆくことはできないか、寄付に繋げることはできないかと考え、ジャズ、
書、和太鼓、能など、様々なコラボレーションを取り入れた2部形式のコンサートとして
当初より続けております。
おかげさまで、年々お客様も増え、数年前からは満席になるような状況です。滋賀県、
近畿地方のお客様が中心ですが、なかには東京からおいでのお客様もいらっしゃいます。
「入場料が3,000円では安すぎる」というご意見も頂戴しますが、邦楽ファンを増やす
ためにもこの価格を維持したいと考えています。
我々の活動に関して言えば、「チケットを買う」という行為も「寄付」だと思うのです。
ですから、私自身も亡き妻の後継者として白菊会を主宰する息子の山本雅楽邦と共に、
出来る限り多くのお客様にご来場いただけるよう努めておりますし、会場で聴いてくださる
皆さまに大きな感動をお届けするよう、全身全霊を傾け、音楽と正面から向き合っています。

「人に感動を与える」ということは、我々音楽家の使命です。その思いを絶えず持ち続け、
生きている限り、演奏を続けてゆきたいと考えています。あと7~8年は続けていけるかなあ。
「年齢のことは忘れ、これからも頑張ってゆきたい」と、天皇陛下にもお約束したのですが、
その際に「自分も決して若くないけれど、邦山さんも頑張ってください」というお言葉を
頂戴し、大変嬉しく思い、また、とても元気づけられました。

<JTS事務局>
社会全体で支えるべき芸術活動として、今後、更に発展が期待できることや、逆に今後、
衰退・消滅が危惧されることについてお聞かせください。

<山本>    
どんな分野においても、経済においても、良い時があれば悪い時もある。崩れて無くなる
ことはまずないと思うのです。しかし、その分野を担う若者が増えないと、消滅はなくて
も谷底に陥ることになります。邦楽を盛り上げてゆくためには、若い人材が必要なのです。
邦楽を担うメンバーが高齢化しており、三曲協会を例にとっても、会長・副会長は70代、
常務理事は皆60代、50代はほとんどいないような状況ですから、今後の40代の活躍に期待
しています。

昔は家元制度があり、今では賛成する人は少ないかも知れませんが、家元制度があった
からこそ、邦楽も進歩してきたと思うのです。現代では、自分たちの世界だけ守ってい
れば良いと考える人が多いように思えるのですが、自分たちが属している団体さえ発展
すれば良いと思ってはいけません。
また、弟子たちがもっと活躍しても良いと思うのです。先生を超えてはいけないという
考えは、なんだか、「窓は開くのだけど開けられないので、暑いけれど我慢している」
という状況のように思えますし、そういう状況にいる人が沢山いるような気がするのです。
少なくとも、自分の弟子には、「窓を開け、どんなことにでもチャレンジし、頑張れ」
と励まし、仕事の機会も与えてまいりました。その結果、私の弟子のうち、現在12名が
プロとして活躍しています。11月25日に65周年行事を予定していますが、65年にわたり
尺八界で活動してきて、孫弟子も含め、135人の弟子たちを輩出することができました。
これを機に、尺八界のみならず、日本文化をより多くの方々に理解していただけるよう、
頑張りたいと思っています。

 山本先生 写真 440x330.jpg
(2012年8月 - 山本邦山音楽事務所にて)


先日、元サッカー選手の中田英寿さんが尺八について教えて欲しいと訪ねていらっしゃい
ました。日本には世界に誇れる文化や技術があることを再発見しながら、全国を巡り、
日本文化の継承・発展を促すことを目的としたプロジェクト*を自ら立ち上げておられるよ
うです。中田さんのような活動により、若い方が日本の伝統芸能に興味を持つきっかけが
できれば、それも嬉しいことです。
*   中田英寿さんの「日本文化再発見プロジェクトReVALUE NIPPON」のご活動に関しては、
     こちらの公式サイトをご覧ください:
http://nakata.net/rnp/

邦楽、歌舞伎、能など、日本の芸術が、テレビ等のメディアへ露出する機会はほとんど
ありません。日本のポップスやお笑いなどのバラエティ番組ばかりで、邦楽がテレビで
放映される機会は無いと思うのです。邦楽を発展させるには、若い人たちに興味を持って
いただくことが重要ですし、そのためには、アピールの機会が必要となります。TV等の
メディアでも、邦楽のために少しでもお時間を頂戴できれば嬉しいです。

日本の芸術が廃れることは無いと思うのですが、大切なのは、その間のプロセスをどう
すべきか考えることです。「失敗は成功のもと」ではなく、「失敗は進歩の一歩」であって、
それを積み重ねて初めて成功できるのです。先程、大津市民会館でのコンサートの例として、
コラボレーションについてお話させていただきましたが、芸術と芸術のコラボレーション
には、まだ多くの可能性があると思います。どちらかが伴奏となるようなものではなく、
両方が主役となるようなコラボレーションでなくてはなりません。例えば、ジャズや書道
を愛する方が邦楽に触れるきっかけとなるように、コラボレーションを行うことにより、
異なる分野が、ファン層と情熱を共有し、互いに新たな感動の世界との出会いの場となれ
ば嬉しいです。更には、学術と芸術のコラボレーションというのも、面白いと思います。
学術に興味がある人にとっては、芸術に触れる機会になるし、同時に、芸術に興味を
もっている人が、学術に触れる機会にもなる。そして、学術と芸術の輪が広がる。
優れた芸術というものは、豊かな人間性を育む力をもっていると思うのです。
物質的に豊かであっても、精神的な豊かさがなければ真の豊かさとは言えません。もっと
人間的なところで、学術と芸術が交流することで、新しい何かが生まれ、心豊かな社会を
実現することができればと願っており、そのためにも様々な企画にチャレンジしてゆきた
いと考えております。

<JTS事務局>
芸術活動への寄付のあり方に関して、山本先生のお考えをお聞かせください。

<山本>  
大学卒業後、一度は貿易会社に勤めたのですが、すぐに退職願を提出し、尺八一本で生き
てゆくことを決意しました。やはりこの楽器が好きだったから、どうしても諦めきれず、
とにかく尺八を吹きたかったのです。
寝るところもなく、調布や下北沢の親戚の家で数年暮らし、祖母の紹介で正派の音楽道場
でも半年くらい住み込みで勉強させていただきました。女性ばかりが住んでいるところで
したので、私だけ犬のいるようなところで寝ていましたが、寝るところがあるだけで、
良かったのです。祖母がいなかったら、ずっと大津にいたかも知れません。
若い頃は、あちこち歩いて、尺八を習い、ひたすら努力を重ねておりました。とにかく
尺八一本で生きてゆきたかったから、吹くことを仕事だとは思っていませんでした。
吹いて頂戴したお金は、お小遣いのように「有難うございます」と感謝して。
それが良かったのかも知れません。人間、どうやって食べていくかとか考えるとイライラ
するけど、お金が無くてもなんとかなると楽天的でいましたから。今まで欲を出さずに
生きてきたのが、良かったのかも知れません。

そんな原点を忘れず、祖母をはじめ、お世話になった方々にはとても感謝しています。
どんなかたちであれ、皆、人に支えられて生きているのですから、社会全体で、日本の
伝統文化も支えてゆくべきですし、私が活動することで、寄付文化に貢献できるので
あれば、まだまだ若いつもりで頑張ってゆきたいと思います。長年にわたり、様々な
コラボレーションを企画してまいりましたが、私は現場の演奏家ですので、企画を考える
のはなかなか難しいことです。寄付文化に繋がるような企画のご提案を頂戴できれば、
是非とも協力させていただきたいと思っております。

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