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インタビュー桐野豊
2015.11.02 | Category 独創人インタビュー

独創人インタビュー

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第11回  桐野豊先生

Japan Treasure Summit(JTS)は、

芸術が果たす役割を世に問い、学術芸術のすばらしさを発信するとともに日本社会に合った寄付文化・社会的投資文化の形を提案することで、学術芸術活動を社会全体が支える風土を醸成していきたいと考えています。

JTSでは、学術芸術界のトップリーダーである独創人のご経験を伺いながら、日本社会に合った寄付文化・社会的投資文化の形を模索していきます。

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JTS事務局(JTS)>

寄付により実現・加速した研究成果、活動等の事例をご紹介下さい。

 <桐野豊先生(桐野)>

- 研究者としてのご自身が受けられたご支援について

私は東京大学薬学部の学生時代、管 孝男先生の下で物理化学を専攻し、大学院修了後もその分野で米国に留学をし、研究を続けていました。2年余後に帰国して管研究室の助手になりましたが、間もなく管先生は定年退職されました。後任に清水 博先生(生物物理学)が着任され、引き続き同研究室のスタッフとして勤務するうちに、本格的に生物学に取り組むことが必要と考え、1983年ごろにドイツに短期留学しました。その際、それは大きな方向転換であったため、なかなか研究費を獲得することができませんでした。その中で、内藤記念科学振興財団の研究交流奨学金を得て、またドイツ側からドイツ学術交流会からも奨学金を得ました。合わせて100万円近くの奨学金に支えられてドイツに2カ月留学することができました。ドイツでは主にマックスプラント研究所の栄養生理学研究所で生物物理を研究しました。このドイツでの研究の中で、生理学に取り組む決意を固めて帰国しました。この意味でも、この留学を支えてくれた両支援者には感謝しています。

1985年に九大に薬学部教授として赴任し、初めて研究室の全責任を負う立場となり、長期的展望を考え研究資金について思い悩んでいた折に、三共生命科学研究振興財団や内藤記念科学振興財団にご支援いただきました。当時、シビレエイの発電器官を研究材料としていましたが、これを通年調達するにも十分な資金が必要でしたが、それを含めた研究費を、これらの財団より頂いた研究奨励金で賄うことができました。振り返ると、研究者としてはやや遅めのタイミングで新しい分野に転換したことになりますが、製薬会社系の財団から、大きな支援を頂き背中を押して頂いたような思いでいます。

- 東京大学の薬学部長としてご経験された寄付の事例は

私は自分自身の為にご支援をお願いすることはあまり得意ではないのですが、大学、学部の為には大口の寄付をお願いすることができました。2000年~2003年に東大の薬学部長を務めた折に、薬学部の建物増築が決まりました。当時、文部科学省も、国立大学の狭溢状態の解消という方針が打ち出していましたが、それでも薬学部研究棟としては国費負担分ではまだ狭く不足が想定されましたので、企業を回って増築の為のご寄付をお願いしました。その時企業から総額12億円の寄付を頂きました。このご寄付で建ち上がった研究棟は、東大内の民間資金で実現した5番目の建物です。

また、寄付講座の設立にも努力しましたが、中でも思い出深いのは、ファーマコビジネスイノベーション講座創設の際に、ご寄付のお願いで企業訪問を重ねた事です。これは、いろいろな企業・財界関係者の方々ともお会いすることができ、大変興味深い経験でした。企業訪問では、当時の外資系製薬企業の日本支社をお訪ねした際に、当時の支社長さんに「大学の先生というよりわが社の営業部長にふさわしいのでは」と言われたほど、粘り強く交渉を重ねました。研究棟建設の為の寄付のお願いに回った時には、一社当たり25000万円という大型の寄付であったこともあり、例えば、東大薬学部OBが役員をしておられるなど、何らかのつながりがある企業が主に応じて下さいました。外資系製薬企業は、日本の特定の大学に大型寄付ということは了承しませんでしたが、寄付講座開設には応じてくれました。

これらの寄付獲得活動を経て、支援につながるのは、やはり根底にある相互共感、人間関係だと強く感じております。

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JTS

社会全体で支えるべき学術・芸術活動として、今後、更に発展が期待できる研究分野、プロジェクトに関してお聞かせください。

<桐野>

私は現在レギュラトリーサイエンス学会の理事長を務めております。これは医学・薬学分野での学会ですが、私はレギュラトリーサイエンスは社会の為の科学であり、医療に加えて、環境、原子力など、人の生活に深く関わる他の科学分野でもこの考え方が入ってくることが重要だと考えています。規制が決められていくときに国民の意思が反映され、規制ができる過程が極力透明であること、これがレギュラトリーサイエンスの基盤となる考え方なのです。

また、学問で何が社会の役に立つか、というのは必ずしも予見できないものであると考えていますので、研究者が興味に任せて取り組む基礎科学を、広く薄く支援することが大事なのではないか、と思っています。「選択と集中」と言われ、「何に投資すれば役に立つか」という観点で判断され、競争的資金などそちらの方向に流れて行き、「学者の趣味のような研究に税金は投入できない」、という声も聞かれます。しかし、その「趣味のような」研究が文化に貢献することはもちろん、後に大きい実用的価値につながる例もたくさんあります。例えば、オーストラリアの研究者によるピロリ菌の発見も、そもそもあくまで自分の興味で研究を始めたことから成し遂げられたものです。この研究が、胃癌と結び付く重要な成果をもたらしています。「選択と集中」「文系分野の再編」など、声が上がってはいますが、裾野を広く支援することが将来的に、学術・芸術などあらゆる分野で大切だと考えています。

JTS

このままでは衰退・消滅が危惧される研究分野、芸術活動、プロジェクトについてお考えをお聞かせ下さい。

 桐野>

芸術関係では、文楽、地歌などの分野を支えてほしいと思います。公的支援がないと、演奏会などの収入だけでは存続が難しいと、その道の演奏家の方もおっしゃっていました。科学では、理学系の昔からある古い分野、例えば分類学などの支援が必要なのではないかと考えています。支援が途絶えると、将来的に後継者がいなくなると考えています。東大は比較的古い研究分野を保持している方だと思いますが、全国的にみると、明治時代から存在する分野が危ぶまれます。若手研究者は、時代の先端、流行の分野に進みがちで、現代は情報も豊富な為すぐ結果を求める傾向があり、地味な学問に向かわない風潮があると危惧しています。

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JTS

学術・芸術活動への寄付のあり方に関して、先生のお考えをお聞かせ下さい。

 桐野>

米国と比較すると、米国は民間人からの寄付が多いと思います。確定申告の際に寄付の税制優遇(控除)もあり、寄付文化が根付いています。日本も制度は整ってきていますが、まだ心・意識がその方向に向かっていないのではないか、と考えています。また、寄付促進のためには、寄付しやすい方法、気軽に寄付行動に導く仕組みを、支援を仰ぎたい組織・団体が工夫する必要があるのではないかと思っています。もっと積極的に発信して、寄付をしたい志を持っている人を実際の行動に誘導する道筋があれば良いのではないでしょうか。

米国とは社会の構造に異なる点もあるとは思いますが、日本も企業・一般人含めて寄付の意識がより高まると良いと期待しています。

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