独創人インタビュー
第3回 今藤 政太郎 先生

Japan Treasure Summit(JTS)は、学術芸術が果たす役割を世に問い、学術芸術のすばらしさを発信するとともに日本社会に合った寄付文化・社会的投資文化の形を提案することで学術芸術活動を社会全体が支える風土を醸成していきたいと考えています。
JTSでは、学術芸術界のトップリーダーである独創人のご経験を伺いながら日本社会に合った寄付文化・社会的投資文化の形を模索していきます。
<JTS事務局(JTS)>
寄付により実現した芸術活動等の事例を教えてください。
<今藤政太郎先生(今藤)>
企業のメセナにより、平成14年より8年にわたり、大阪のいずみホールで自分の冠のついた演奏会を続けさせていただきました。そのおかげで、関西にて邦楽を聴く機会が増えたと、多くのお客様に喜んでいただけました。通常、邦楽の演奏会では観客動員数は50%あれば良いほうなのですが、おそらく、平均80%はあったのではないかと思います。
古典の名作から創作邦楽にいたるまで、前年の、更には翌年のプログラム内容まで考慮しながら、邦楽の世界をご堪能いただけるよう、真剣に取り組み、毎年、様々な作品をお届けしてまいりました。
この8年にわたる演奏会を通して、関西の邦楽文化に寄与することができたのは、とても嬉しいことであり、ご支援くださった企業、そして、このご縁をとりもってくださいましたディレクターの磯山雅先生には、大変感謝しております。
<JTS事務局>
社会全体で支えるべき芸術活動として、今後、更に発展が期待できることについてお聞かせください。
<今藤>
やはり温故知新ですね。
古典の様式を体得するということ(習得するのではなく、体得する)は、日本文化全体を知るということです。様式は今までの積み重ねであり、蓄積の最大公約数でできたものですので、是非体得しなくてはなりませんが、様式があるから、様式通りに行えば良いというものではありません。
水が澱めば腐ってしまうのと同じで、やはり流れであるべきだと思います。何が時代に沿うものなのか、あるいは、より良い芸術に発展すべきものは何なのか、両面を考えなくてはなりません。その両面を考えて、それが上手く機能すれば、それは発展するかもしれない。
つまり古典の伝承と創作により、邦楽の進むべき方向を探ることが大切なのです。
<JTS事務局>
社会全体で支えるべき芸術活動として、逆に今後、衰退・消滅が危惧されることについてお聞かせください。
<今藤>
今後衰退・消滅が危惧される芸術活動は、発展が期待できることと、表裏一体なのです。
このことに芸術家が気付いて活動しないと、発展どころか、衰退してしまいます。
また、邦楽芸術を継承してゆく、若い芸術家を育ててゆくことも大切であると考えています。
邦楽だけではないと思うのですが、芸術音楽の世界で、作曲家として生計を立ててゆける人はなかなかいません。そんなわけで、若い作曲家が育ちません。
邦楽の作曲に関してですが、以前は文化庁主催・国立劇場募集の作曲コンクールがありましたが、もう無くなってしまい、その他、以前催されていた個々の邦楽団体のコンクールや新聞社主催のコンクールの機会も、今ではなかなかありません。これは、残念ながら、作曲の分野に限ることではなく、演奏をも含めた全般に亘ることです。
タイトルがあろうが無かろうが、その人の価値は変わりませんが、「売り物には花を飾れ」と言うように、若く能力のある人には、何か飾ってあげたいと思うのです。そのためには、やはりコンクールなどで、デビューのきっかけを作ってあげたい。それには、芸術活動へのご理解とご支援が必要なのです。
<JTS事務局>
芸術活動への寄付のあり方に関して、今藤先生のお考えをお聞かせください。
<今藤>
邦楽芸術の発展のためには、まずは目を向けていただき、何かしらのお力を添えていただく必要があります。
それは、施しではなく、「将来、自分たちの社会へ戻ってくるもの」という考えで寄付を頂戴できれば良いと思います。その寄付は、見返りを期待するものであってはならないと思うのです。
また、寄付される側も、「自分たちに寄付を頂戴しているのではなく、日本文化に寄付していただいている」ということを決して忘れてはなりません。つまり、寄付というものが、自己の利害関係で判断されてはならないということです。利害関係から離れたところで、価値判断ができるように心掛けないといけないと思うのです。
大阪の生んだ世界の芸術、文楽というのは、「三人遣い」といって、ひとつの人形を3人で操るものですから、歌舞伎でしたら、ひとつの役に1人で済むところ、文楽では、ひとつの役に人形遣いが3人必要となります。
主遣い(おもづかい)が首と右手、左遣いが左手、足遣いが脚を操作し、「頭」と呼ばれる主遣いの合図によって呼吸を合わせてひとつの人形を操るのが普通なのです。
「そんなものは、3人ではなく、1人でやれば良いではないか!予算を削るべきだ」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、人形を3人で遣うのが良いか悪いかというのは、芸術的な判断の問題であって、お金の判断の問題ではないと思うのです。3人で遣う方が良いのか、1人の方が良いのか、また人形遣いが顔を出す方が良いのか、出さないほうが良いのか・・そういったことは、芸術の問題です。ただ、長年の伝統で培われて、それが良いと考えられていることを、これから改革して1人でもっと良い表現力を持とうではないかということになれば、それはそれですが、予算の関係でそれはいかんという考え方は、悲しくなってしまうのですよ。
西洋音楽の演奏に関して言えば、日本のオーケストラよりも優れたオーケストラは世界にいるかもしれません。
しかし、日本の文楽よりも優れた文楽は、世界のどこを探してもありませんし、文楽は世界無形文化遺産ですよね。
我々日本の伝統の世界は「和」です。「和」というものは、主張を譲り合わなければ和にはなりません。
譲り合った結果が和ですよね。「和」を重んじる国民だからこそ、今の日本があるのだと思うのです。
それがあったからこそ、大戦後の復興も成し得ましたし、最近の例としては、震災からも起ちあがろうとしているわけですよね。「和」というのは、世界に冠たる思想であって、我々が自然に引き継いできた思想というのは改めて優れているなあと僕は思うのです。これは、大事にしてゆきたいですね。
大切な日本文化、邦楽芸術を後世に残してゆくためにも、より多くの方に目を向けていただき、ご理解・ご支援を頂戴できればと願っております。
